風邪のため早く帰り、暖かい太陽の日差しの中で眠くなるまで読んだ本が、岩崎から借りた「東電OL殺人事件」と「東電OL症候群」著者佐野眞一の2冊、勿論900ページ近くの本を一日で読めるはずがない。何日もかけて読み進めていたわけだが、遅読の自分としてはかなり速いペースだった。そして昨日読み終えた。
それは関心のあった事件だったが、深入りしないでいた。しかし、先日、新証拠が発見され再審への突破口になるか、などという新聞記事もあり、「被疑者ゴビンダはでっち上げられた」と直感していた私としては、未だ獄にとらわれているネパール人青年ゴビンダ・プラサド・マイナリへの同情の念が禁じ得ない。
東京大学卒業の父と日本女子大学卒業の母を持つ慶應義塾大学卒業後東京電力に入社した泰子が何故、売春に身をやつしていったのか、その闇を解こうとする作品だが、泰子の度はずれた生き方、例えば、会社勤務の後、毎日客を4人取ると決め、しかも最終列車で帰宅する、客の名前と金額など克明に記録する几帳面さなどは、その辺で「援助交際」をしている若い娘の軽さを吹き飛ばす迫力を持つ。「大堕落」の凄みは他の追随を許さない。
彼女が殺害された建物の隣のアパートに友人と住んでいたゴビンダは勿論、泰子の客ではあったが殺害などしていない。千葉県の仕事場から帰る時間からしても殺害時間には居合わせられないのだ。
一審裁判長は「被告人は無罪」と言い渡した。殺害を証明できないのだ。疑わしきは被告人の利益に、いうことだ。無罪となれば、不法滞在の容疑で強制退去処分になりネパールへの帰国となるはずだった。東京地検は控訴し、ゴビンダ再拘留を求めた。東京地裁は職権発動はしない旨を決定、東京高検はこれを不服とし東京高裁に職権発動を求めたが、高裁も再拘留しないことを決定した。その理由は「一審の訴訟記録がまだ届いていない段階では拘留権限がない」というものだった。その後、訴訟記録が届き、東京高検の3度目の職権発動を求めた申立てに対し今度は再拘留を認めた。この決定に関わっていた裁判官が村木だ。
控訴審の高木裁判長は一審と同じ証拠物により今度はゴビンダを「無期懲役」とした。結果、彼は未だに他国の獄につながれる羽目に至っている。
そして裁判官村木、彼は児童売春、児童ポルノ禁止法違反で警視庁に逮捕され有罪、弾劾裁判で法曹資格を剥奪された。
佐野はこれらを時間進行とともに詳しく調査し、ネパールにまで足を伸ばし克明に記録する。ゴビンダの家族、友人、泰子の同僚、家族、高木高裁裁判長、そして村木の子供時代から結婚後の家族の状況を調べ、その生き方の背後関係を知ろうとする。
判決にゴビンダがネパールという小国出身者故の差別がないのか、泰子のあまりにスケールの大きな「堕落ぶり」を他人事ではなく親近感を持って感じている女性が相当いることがわかり、今日の社会における女性の置かれている不安定さを描き出してもいる。一方、警察、検察、裁判所という権力機構のおぞましさをも押し出そうとしている作品だ。
10年前に書かれた本だが、全く古くなっていることなど感じさせない迫力ある。
ゴビンダを救おう。
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