みんな寿命を全うしようぜ

みんな寿命を全うしようぜ
西表島で会った昼の蝶

2010年5月14日金曜日

平居照朗先生の死を心から悼む

 ついに10日、平居照朗先生が逝去された。とにかく並の人物ではないので表現に困ってしまうが、資本論を学問としてあそこまで深く理解していた人がこんな身近にいることに驚いた。勉強会を続けてもっと多くの人に学んでもらおうという意欲満々だった。中国語、韓国語、そして歴史に通じ教養も豊かで、俗っぽさも持ち合わせている。人の名前をよく覚えているのには驚いた。その人が鬼石町で儲かりそうもないガソリンスタンドを経営しているのだから面白い。私は先生の愚痴を聞いたことがない。資本主義の原理を知っていたから、愚痴なぞ言ってもなんの役にも立たないと思っていたのだろう。亡くなってからその評価が高まる人であることには間違いない。

 資本論がどれほど難しいか。資本論のフランス語版にたいする序文と後書で、カール・マルクスは言う。「学問には坦々なる大道はありません。そしてただ、学問の急峻な山路をよじ登るのに疲労困憊をいとわない者だけが、輝かしい絶頂をきわめる希望をもつのです。」と。

生前、先生から「死んたときは弔辞を頼むよ」と言われていたので思いを込めて読ませていただいた。マルクスが亡くなったときエンゲルスが悼んだ言葉を援用しようかとも思ったが、いきなりは見つからないし、そこまですると、真の意味での平居照朗先生への追悼から外れてしまうので止めた。ご冥福を祈るばかりだ。塾生同士の関係も継続し「しのぶ会」を落ちついたら企画したい。


               弔 辞
薫風香る5月、今は亡き平居照朗先生の御霊前に謹んで哀悼の言葉を捧げます。
7日にお見舞いしたときは、元気な様子で、短時間ではありますが、私たちとお話していただき安心していたところ、11日の朝、このような悲しいお知らせを受け、驚きとともに深い悲しみに沈んでいます。
今日は、平居塾で共に学んだ84才の小林悟さんをはじめ多くの塾生が参列していることをご報告します。

先生との出会いは、平成17年にさかのぼります。私の大学時代の友人を通じて「鬼石に経済学を講義できる先生がいるので、勉強会を企画しないか」と誘われたことからでした。どんな経済学かと尋ねると「マルクスの資本論」と言います。
私自身、若い頃から幾度となく挑戦した資本論は、あまりにも難解でそのすそ野にも入り込めない状況でした。マニフェスト(共産党宣言)すら理解したとは言えません。

半信半疑で平成18年1月から、月1回のペースで藤岡公民館を拠点にして始まった平居先生による「資本論講座」は驚きと新鮮さの連続でした。
最初は日高晋著「経済学」から経済学の考え方を学び、宇野弘藏著「経済原論」と資本論を並行学習する形での勉強会でした。そしてなんと4年間で資本論全三巻の通読解説を終えてしまったのです。参加者は当初、10人程度でしたが、その解説の分かり易さと先生の奥深いさまざまな分野に及ぶ知識の支えもあり、参加者は減るどころか、次第に増え最後には30人にも達しました。年齢も20代から80代までと全世代を縦断しています。

「この困難な時代だからこそ、資本論を学ばなければいけない」と言う平居照朗先生は、高崎経済大学から法政大学大学院を終了した宇野弘藏経済学派に属する在野の経済学者です。

先生は自由、自主を信条とし、参加者の思想・信条は全く意に介さない公平感覚あふれた人でした。勉強会の後は近くのラーメン店で、復習やら社会情勢を語り合い、夏と冬は居酒屋で酒と料理を囲んでの熱い語らいのひとときを持ちました。塾生一同、年齢も職業も信条さえも違う者同士でしたが、平居先生を中心にした4年間の学びの時間を共有した今は不思議な信頼感で結ばれるようになっています。

先生は事業経営をしながらも、時間があれば、読書、読書で、新聞はスポーツ紙も含め全紙を読み、さまざまな知識に富み、中国語、韓国語にも堪能でした。そのような人が自信を持って語る資本論は迫力があり、説得力がありました。この間の講義に対する報酬も一切拒否するなど、私たちには申し訳ない限りでした。

資本論は、資本主義社会においては、人間が資本の利益を生み出すための道具でしかないことを、一昨年秋、資本の暴走という形で起きた米国発の「リーマン・ショック」で証明しました。社会の主体が資本ではなく、人間が主体の社会に変えていかなければいけない。そのことを理解する上にも資本論学習は必要だと、みんなで議論したことを思い出します。

最終講義はどこかの大学の教室を借り「市民講座」として多くの人が参加できる企画をし、何らかの区切りにしようと考えていましたが、実現することなく、先生は私たちの元を離れてしまいました。
それは形式を嫌う平居先生の私たちに対する思いやりであり、4年間の学習をそれぞれの人生のなかで、区切りなどつけず継続して活かして生きよ、という叱咤激励と思えてなりません。

平居照朗先生、本当にお世話になりました。あなたの知識と理解度には及ぶべくもありませんが、これからも学習を続けることを御霊前にお誓い申し上げます。どうか私たちを忘れないで下さい。残されたご家族の方々をお守り下さい。そして安らかにお眠り下さい。
 平成22年5月14日
             資本論講座平居塾一同
             代表して玉村町議会議員 石川眞男

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