謹呈を受けた二冊
門倉まさるさんから先日二冊の本が届いた。「短歌の風景」「黄金の月」の二冊だ。
中国、韓国は勿論アジア諸国、チベット、アフリカ、南米、ヨーロッパまで自由自在に移動し短歌を作った。
特に「短歌の風景」はいい。短歌だけでなく、芭蕉一門、伊勢物語、兼好法師家集などの随筆は、時代背景や彼らの人間関係に迫り、人間くささを臭わせてくれる。
その門倉さんは時間があれば群馬の森を散策している感性の人だ。その中で作った歌もある。
まあ、じ~っくりと味わってください。
《黄金の月出でにけり金閣寺遠山桜の杉戸絵のなか
寂しくてその寂しさが大好きで羅城門跡また来た日暮れ
抱一の絵に見し淡き輪郭の月浮かびけりああ森は海
僧形の清盛座像経を見る黄泉の国でも覗く目をして
てのひらに載せてみたいな室生寺の五重塔が眼下に見える
咳をしても一人と詠みし詩人あり無季自由律咳に似たるや
制服の白きアオザイ女子高生それぞれ白の刺繍異なり
スリランカの茶摘み娘のサリーにもファッションありや青きが目立つ
ヤク歩む肩の筋肉堂々と腰の動きも黒光りして
咳すれば痛みが腰をはしるなりチベットの寺高所が多し
長白山天池を見んと登りたれば山埋め尽くす韓国言語
外国のお金が交じっていましたと外国で言われる日本のお金
若き日のサハラの旅は種赤きサボテンの実の甘き思い出
カシュガルの職人街の賑わいは手づくりの楽器手づくりの柩
7千の高さ越えねば名前などつかぬと言われ名なき山見る
水面に河馬の親子が鼻出してアフリカの陽が鼻にかがやく
国境を軽くまたいで虹が立つ雨また雨のあいまアフリカ
「叫び」とのムンクの絵なる本物はうつろなる眼の奥ぞかなしき
白ひげの旅の僧侶のごとくにもアルパカは来る マチュピチュの道
寝返りも上手になりて泣き寝入り大人の性を児はすでに持ち
クワガタを森へ還して横浜へ4才の孫は帰りゆきたり
子守唄自分で歌い寝入りたり赤児背中に重くなりつつ
乙女らは薄き緑を身に着けて森の夜明けにひっそりと立つ
曇り日の木々は静かに森の中みな平等に影の無きなり
焼まんじゅう紡ぎまんじゅう恋まんじゅう土産の店に人間の知恵
思い出は飢餓と重なる真昼より明るき夜の敵機編隊
わが町に戦車通るを見たりけり50センチも橋沈みたり
本質は骨であるのか冬木立異形鋭く天を刺したり
許すという現在の言葉を信ずるや怒りは醸す時こそかけて
半世紀余りを生きて我が抱く思い政治に届きたるなし
兵隊よススメススメの教科書はスズメスズメと思いいたりし
海ゆがみ津波を起こす 人ゆがみ他国を攻める ゆがむ恐ろし
愛国心愛国無罪となりゆけば他国はすべて鬼が島なり
菩提樹の下に修行を積むとても目覚めた人はただ一人なり
政権がどう変わろうとワッハッハわれらは水よ低きに溜る
化粧してみんなが同じ顔になり若さどこかに忘れてきたか
心まで映す写真機もしあらば魑魅魍魎の群れかこの世は
古稀近く短歌始めて師をしらず 師とは大きな饅頭なるや
遠くでも近くでもなく未来でも過去でもなくて何を見る眼ぞ
いにしえの本読みたれば男たち貴族も武士もよく涙垂る
永遠も無限も我ら生きものに縁なかりけり今日無事がよし
兎萩猿萩鹿萩狸萩狐萩など在りそうな秋》
ああこんなに拾い出してしまった。門倉さんの自在さに魅せられている。群馬の森を歩きたくなった。
最後にお気に入りの一作の紹介
《みな若く生きているのが嬉しくて古き映画をまたも見るなり》
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